LOGIN ヴァズラ・スルクズィールは
しかし、ある
自由都市連合の政体は複雑怪奇で、いつも身内で争っていると思えば、外敵が現れると一丸となって反抗したりする。連合を称してはいるものの統一された外交チャネルは存在しないと言ってよく(一応、連合名義での大使館が各国に存在してはいるのだが)、犯罪人引渡し条約の締結など夢のまた夢、汎国家刑事警察機構の捜査権すら及ばない。
まあ、要するに国家ぐるみで犯罪者御用達の潜伏先なのである。
5年ほどして、スルクズィールは帰ってきた。
別にラビリントゥムに特別な愛着があったわけではない。 ただ、やりかけの仕事を済ませに来たのだ。その仕事とは、王墓の盗掘である。ラビリントゥムの郊外には、王家代々の墓があるのだ。大崩壊以前の古代遺跡を造営し直したものだという。二十代余り続いた王たちの副葬品はもちろん、秘蔵の遺物も眠っているらしい。
――王家に不当に囲われた美女の寝室を、指をくわえて見ているだけなど、盗賊の
スルクズィールは気取った言い回しで王墓を狙う理由を語ったが、本音は金銀財宝を欲しているだけである。まあ、そのついでに
手口は決まっている。
王墓の地下には、大崩壊時代に作られた地下通路が無数に走っていることを知ったのだ。おそらく、元々は要人が籠もる要塞か何かだったのだろう。緊急時の脱出用に作られたと思われる通路は、10km以上先まで広がっている。なお、この情報をもたらした情報屋は迷宮で怪物の餌となった。情報とは独占してこそ価値がある。その通路の一本が、竜鱗街に伸びていた。
本来、地下深くにある通路は特殊な重機でもなければ掘り抜けるものではない。また、出口はそれぞれ王家の直轄領内にあり、こちらも手出しができない。 しかし、竜鱗街が窪地にあること、通路が硬い岩盤を避けて上方に蛇行していたことから、そこだけは人力で掘り抜ける深さになっていた。手頃な廃屋を見つけ、秘密裏に掘削を進めた。
もう数メートルも掘ればたどり着く――そのタイミングで、スルクズィールは潜伏を余儀なくされたのだ。5年の雌伏に耐え、帰ってきたスルクズィールは驚いた。
例の廃屋が酒場になっているではないか。 しかも、最悪の立地にも関わらず、そこそこに繁盛している。閑古鳥が鳴いているなら簡単だったのだ。
ひっそりと殺してしまえばいい。 周囲の住人も夜逃げと考えて、巡察に通報などしないだろう。しかし、流行ってしまっていてはそうはいかない。
突然店が閉まれば不審がられる。 巡察がやってきて、地下室に隠した坑道が見つかってしまうかもしれない。 そうなれば計画は水の泡だ。そこで、スルクズィールは一計を案じた。
人を使って嫌がらせをし、廃業に追い込もうと考えたのだ。 おあつらえ向きに、店の主人は劣等種族の
もうすぐ夜逃げでもするだろう……そういう頃合いに、奇妙な二人組が現れた。そいつは破落戸どもを一蹴し、以前に増して店を繁盛させてしまった。嫌がらせで追い出すのはもう無理だ。小遣いで動くクズはほとんどいなくなった。大金を使えば噂が立つし、手下を直接使えば足がつく。
――何より、このヴァズラ・スルクズィール様の計画を邪魔しやがって。
スルクズィールのはらわたは煮えくり返っていた。それこそ
ならば。
円筒状に並んだ6本の銃身。雷晶石で銃身を回転させる機構。瞬きごとに50発の鉛玉を吐き出す連射力。激しい弾薬消費を支える魔導圧縮弾帯。それを支える
ミニガン。
武器商人曰く、そんなふざけた名称らしい。
だがそれは、スルクズィールにとっては当然歯止めにはなり得ない。
使うのは優等種たる回りくどい真似はもうやめだ。
10人ほどの手下を引き連れ、例の酒場を封鎖する。 腰だめに構え、安全装置を解除し、躊躇なく引き金を引く。 跳ね上がった薬莢の雨が、湿った土に降り注いで湯気を立ち上らせる。 鋼鉄の獣が店内に踏み込む。
コンバットブーツの底が、出自不明の破片を踏んでじゃりじゃりと不快な音を立てる。黄緑色の眼光が、店の奥に注がれる。
穴だらけのカウンターにもたれるように倒れた「ちっ、武器商人の野郎、
蜂の巣になった
ともあれ、スルクズィールは穴だらけの店内を見渡して、
「鱗なしがあと二匹いるんだろ? てめえら、探してぶっ殺してこい」
手下の
二股に裂けた暗緑色の舌で、唇をべろりと舐める。
さあ、地下に急がねば。
とっておきを使って坑道をぶち抜き、地下通路に入る。騒ぎを聞きつけた巡察が来るだろうが、関係ない。王墓の財宝を手当たり次第に奪ったら、そのまま地上から脱出する。堅牢な王墓の警備も、たったいま起きた、計算違いを除けば。
「グアああああっ」
「ひギャああああアっ」 「グぶっ……ぐウううう……」階段を転げ落ちる手下ども。
その四肢はあらぬ方向に曲がり、鼻面がひしゃげめり込んでいる。こつ、
こつ、 こつ。軽い足音が降りてくる。
顔が映りそうなほど磨かれた黒い「お嬢様の安眠を妨げる不届き者は、あなた方ですか?」
黒い瞳が、スルクズィールを冷たく射抜いた。
「あの少女は何者だったのだろうか」 早暁。空が白み、小鳥たちが囀り始める頃。 アルドールは真樹派教会の礼拝堂で、ただ一人祈っていた。 両手を組み、傅いているのは真樹派の崇める世界樹を象った神像。 それにもたれるように、神弓イーヴァルヴィズルを携えた勇者の姿が彫り込まれている――はずだ。 アルドールの目はもはやそれを映すことはかなわない。 あの日、奇跡的に一命は取り留めたものの、オリーヴ色の両眼は白濁に色を変え、永久に光を失った。 代わりに、瞼の裏に焼き付いた姿がある。 切削刃の如き、金の巻き髪。 紫水晶の如き、紺碧の双眸。 白磁器の如き、滑らかな肌。 そして、少女の腰よりも身幅の広い、一振りの黒い大剣。 空を駆け、自由自在に剣を振るって混沌を退け、聖剣さえも跳ね返した存在。彼女の活躍によって救われた命は十万でも足らないだろう。 名をホウオウイン・レイカ。 異端者リンネの屋敷で働いていた助手であり、その企みをたった一人で挫いた戦士でもある。 ――勇者たちが立ち上がったのは、己の良心に従ってのことですわ。神様はそれを見守ってくださったかもしれませんが、立ち向かう意志は、勇気は、誰かから与えられたものなどではございませんの リンネの屋敷で交わしたわずかな会話。 茫洋とした少女の碧い瞳に、一瞬だけ力強い意志が宿っていたように見えたのは錯覚ではなかったか。「勇者……勇者たち……」 彼女は果たして、本当に勇者なのだろうか。 教団の教義では、たとえ様々に姿を変えようとも勇者は唯一人である。 もしも彼女が本当に千年前に世界を救った勇者で、そのひとりに過ぎないのだとしたら。その事実が知れ渡れば教団の混乱は免れないだろう。下手をすれば、分裂し教派間の戦争が始まるかもしれない。 そして、それを防ぐのが異端審問官の役目である。 だが、 アルバートの真っ暗な世界では、ただ少女の姿だけが輝いている。 心の中でさえ、異端と呼ぶことができない。 あるいは、彼女こそは真理なのではないか。 そう思う心が抑えられない。「神よ……偉大なる世界樹よ……」 だから、アルバートは神に祈る。 異端審問官になる際に、捨てたはずの神に。 人の身では抱えきれぬ苦悩に直面したときこそ、神に祈りを捧げるのかもしれない。
勇者の再臨。 そんなことがありえるのだろうか。 絶対にありえない。 それが、これまでのリンネの考えであった。 だが、眼前で繰り広げられている光景は何であろうか。 少女が宙を舞っている。 比喩ではない。 文字通り、空中で舞い踊っているのだ。 金糸のような巻き髪をたなびかせて、 くるくると、スカートの裾を翻し、 その手には黒い大剣。 複雑な文様が放つ光が一筆ごとに異なる色の線を引き、混沌を引き裂いていく。 少しずつ、少しずつ、チーズを削るように。 削り取られた肉片は、光の粒となって大気に溶けていく。 混沌とてやられるがままではない。 無数の人体を練り合わせて作った掌を少女に向かって伸ばす。 その速度は遅く見えるが、それは距離と巨大さから来る錯覚だ。 一本一本が、謝肉寺院の大礼拝堂を支える主柱ほどある。 矢のような速度で殺到する触手の群れ。 群がるそれを、優雅なステップで軽やかにかわす。 かわす。 かわす。 それはまるで、 蝶を追う子供の手のようであり、 天より垂れた糸に縋る亡者の手のようでもあった。 かわすたびに大剣が振るわれ、 指を切り落とし、 手首を切り落とし、 前腕を半ばから両断する。「なんて動きだ……」 眼前で繰り広げられる絶美に奪われていた己の理性を呼び覚ますため、リンネはあえて声に出して呟いた。「分析しなければ……」 まず、空中飛行の魔術。 通常、竜鱗の裔や翼腕鳥人、喋蝦蛄のような有翼種族を除けば、機械や魔道具の補助もなしに空を飛べる者などいない。ところがあの少女は、それらしい道具に一切頼っていないように見える。 また、混沌の因子は魔素に干渉する。あの怪物の直上は、魔力場が相当に乱れているはずだ。例え有翼種であってもまともに飛べる環境ではない。 にもかかわらず、少女は自在に空を舞っている。膨大な魔素出力と、精緻なコントロールが両立しなければ到底成し得ない所業だ。例えるなら、一本の絹糸の上を全力で駆けながら軽業を披露するようなもの。それほどの絶技を、少女自身よりも重いであろう大剣を操りながら、汗ひとつかくことなくやってのけている。 次に剣術の冴え。 リンネは剣術については完全な門外漢である。長剣と|幅広
赤い霧は薄れ、今は低い位置に靄がかかる程度になっていた。 リンネはバルコニーから身を乗り出し、光受容細胞を集中して眼下の光景に見入っている。 それは油絵具をでたらめにぶちまけた抽象画のようだった。 赤が、青が、黄色が、緑が白が黒が茶色が滅茶苦茶に入り混じり、地面を埋め尽くし、何か巨大な生物の内臓のように脈動している。あちこちで起きる小爆発は僧兵による銃撃だろう。衝撃波を発生させる鎮圧用の魔弾を使っているようだが、効果はあまりなさそうだ。 その上には、無数の人影が蠢いていた。 顔面を掻きむしって泣きわめく人間。頬の皮膚がべろりと剥がれ指に絡みつくが、すぐにとろけて指そのものに同化する。めくられた皮膚は瞬く間に再生し、再びべろりと引き剥がされる。 咆哮しながら手近な人間に喰らいついているのは食人巨鬼。若い女の肩口に噛みつくが、顎と肩肉が癒着し、顔を埋めたままくぐもった叫びを上げる。 竜鱗の裔が火の吐息で緑肌矮人を黒焦げの炭に変えるが、卵の殻を剥くように炭化した組織が剥がれ落ち、内側から現れた緑肌矮人がわけもわからない風にきょろきょろとあちこちを見回している。 いずれも下半身が脈動する異形の大地と融け合わさっている。大地からは代わる代わる人が生え、また溶け落ちるように沈んでいった。混沌に飲み込まれた人々が再生と融合を繰り返しているのだ。「なるほどなるほど、他の生物や物質と融合しても、すぐに意識を失うわけじゃないのか」 リンネは目の前の光景を神経細胞の回路に刻み込み、体内の最も安全な深部にしまい込む。粘体生物は体細胞の位置を変更し、全身で効率的に記憶を行えるが、重要な記憶は損傷を防ぐために体表から遠ざけるのだ。「同志ィいいいぃイ! リンネぇ同志ィいいいぃイ!」 己の名を呼ぶ声。 混沌の中央あたり、そこにイワナガの身体が生え、大きく手を振っていた。上唇と下唇が癒着しかかって糸を引いている。声帯や口腔も元の形は保っていないのだろう。人外じみた奇妙な発音になっていた。「リンネ同志ィ! やリました やりまスィたゾぉ! 大ホウ壊 始源の地ゴク 混沌に満ちた世界の終ワリ! 勇者再臨のトキは来たレリぃ!」 イワナガの胴体が蛇の
【巡察官による捜査資料より抜粋】◯氏名:チュユ氏族のキリリ◯性別:女性◯種族:緑肌矮人◯爵位・階級:二等市民◯備考:重要参考人(カール・フォン・リンネ 粘体生物)の隣家の使用人。副業で占い師◯聴取内容(録音ママ): ええ、はい。ちょうどお勤めが終わりまして、二等市民街の家に帰るところでした。ああ、あたしは通いでしてね。洗濯だの掃除だの、一通りの用事が済んだら帰るんですよ。 最初はね、地震だと思ったんです。 ぶるぶるぶるぶるって、地面が細かく揺れる感じで。 でも、驚くじゃありませんか。 どおおおおおーーーーーん! って、急に突き上げるような揺れが。 それで、隣のリンネ先生…… いや、もう呼び捨ての方がいいんですかね? 異端が起こしたテロに関わっていたんでしょう? 時々頼まれごとなんかされてたんですよ。 ああ、恐ろしい恐ろしい。 あんな人の好さそうな顔してねえ……。 あ、いえ、言葉のアヤですよ。 粘体生物に顔つきも何もありませんって。 ほんと、よくわからなくて不気味な連中ですよねえ。 あ、すみません。話を戻しますね。 それで、リンネの屋敷がどどどどどどって崩れ落ちましてね。 いやあ、仰天しましたよ。 思わず腰を抜かしちゃって、持って帰ろうとしてた卵がみんな割れちゃいましたからね。 あれ、嫌ですよう。盗んだわけじゃありませんって。 古くなった食材を持ち帰って処分しようとしてただけですからね。 ご主人様にお話しなさっちゃ嫌ですよ。 それで、リンネの屋敷が崩れて、もうもうっと土煙が上がって。 そこから何がでてきたと思います? 怪物ですよ、怪物。 迷宮の深層に住んでいるようなでっかくて醜いやつが、たーくさん。 え? 迷宮に潜ったことがあるのかって? 嫌ですよう、こんなおばさんを捕まえて。 あるわけないじゃないですか。 でも、怪物なら幻画や新聞でよく知ってますよ。 地下に潜れば潜るほど、大きくって強くって、不細工なやつが出てくるんでしょう? それから考えたら、あの怪物たちはどう考えたって最下層レベルですよ。 ひょっとしたら深淵から来たのかも? 深淵、知りません? 迷宮の最奥を迷宮探索者たちはそう呼ぶって言うじゃありませんか。 まだ誰も
広場で起きた異変を、リンネはじっと観察していた。もし眼球が備わっていたなら、その双眸は好奇心に爛々と輝いて見えただろう。 アルドールに招待されたのは想定外だった。公開処刑に立ち会わせることで捜査のきっかけを探ろうとしているものと思われたが、あえて乗ることにした。どうせ数日もすればイワナガが残してしまった証拠を嗅ぎつけられるだろう。いまさらその程度のことを恐れても仕方がない。 それに、どうせならこの実験を特等席で観察したかったし、多くの目撃者が得られるのもかえって好都合だった。「何が起こった!?」 アルドールが元から青白い顔をいっそう蒼白にしてこちらを振り返った。「さあ、勇者でも再臨したんじゃないですかね?」 肩を竦めてみせると、アルドールの額に血管が浮いた。「ふざけるなッ! 何か知っているんだろう! 正直に吐けッ!」 リンネのローブの襟を掴み、蒼白だった顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。粘体生物でもないのに器用に体色を変えることだ。もちろん、仕掛け人はリンネである。何が起こっているのか知っている。これから何が起こるのかも。結末までは観察しなければわからないが、だからこその実験である。「何のことやらさっぱり。それより、いいんですか?」「……くっ!」 眼下の阿鼻叫喚は続いている。赤い霧は範囲を広げ、異形の触手が周辺の人々を次々と捕らえ、霧の中に飲み込んでいる。「一体何なのだあれは……」 側近たちへ矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、アルドールがひとりごちる。(混沌の因子をせっせと抽出して集めたものだよ、って教えたらどんな顔をするかな) そんな好奇心が疼いてくるが、それをするには早すぎる。この場で拘束され、続きを観察できなくなってしまっては本末転倒だ。 イワナガに持たせたのは、高濃度の混沌の因子を溶かし込んだ液体を詰めた瓶である。内部にはナトリウム化合物を包んだガラス球を入れ、激しく振ると爆発する仕組みにしてあった。人混みに投げろとは言ったが、まさかこちらに振ってみせるとは思いもよらなかった。勇者再臨の儀式に殉じることを誇りたい気持ちでもあったのだろうか。(まあ、無事爆発もしたし、何でもいいんだけれど) 再臨派は、世に混沌が満ちれば再び勇者が降臨し、これを滅するのだと信じている。そのため、混沌の復活を目指すと称してあれこれと活
数日後、公開処刑の日が訪れた。 アルドールが処刑対象に選んだ異端は三名。鉄釘を打ち込んだ女、それから七歳の子供と足の弱った老人。いずれも人間で、再臨派の中枢に迫る情報は持っていない末端の信者だ。だが、同胞の同情は存分に買えるだろう。 謝肉派寺院前の広場に設けられた処刑台に、三名が磔にされている。手足は針金でくくりつけられ、口には鉄の猿ぐつわ。余計なことを喋られないようにするため、ではない。罪状の読み上げと説教を邪魔されないようにしているだけである。「この者たちは聖なる教えを裏切り、混沌の甘言に心を囚われた。彼らは愚かにも神と神の遣わせし勇者を疑い、その永遠を否定し、神の慈悲を拒絶し続けたのである――」 新古樹族の公証人が罪状を読み上げ、広場に集った観衆にざわめきが拡がる。罪状に絡めて語られる説教に心を打たれたわけではない。「説教はいいから早く処刑をしろよ」と急かす声がほとんどだ。 場所柄もあって観衆の多くは食人巨鬼で、彼らは処刑そのものへの興味は薄く、執行後の食肉の施しを期待しているだけだ。罪人の埋葬は禁じられているため、「墓荒らし」という余計な一手間が挟まらない。滅多に手に入らない新鮮な人肉にありつく貴重な機会なのである。 その他には緑肌矮人、竜鱗の裔、新古樹族、次いで人間が多い。比率としては食人巨鬼ーを十とすると、他の三種族が一から二ずつと言ったところか。同種族ごとでなんとなく集まっているので数えやすい。「哀れな罪人たちの罪を清める舎利の配布を開始します。神の愛し子たちよ、ぜひ手を貸していただきたい。哀れな魂が死後に混沌に飲み込まれず、大樹の糧となって汚穢を浄化し、再び実を結ばんことを」 新古樹族の侍祭たちが募金箱を捧げ持って観衆の間を回る。刑の執行場所こそ謝肉派寺院の前だが、今日の仕切りは真樹派が中心となっていた。公証人の祈りの言葉が真樹派のものだったのもそのためである。 観衆たちは小銭を募金箱に入れ、代わりに小石と贖宥符を受け取る。贖宥符は教団への寄進と引き換えに手に入れられる紙製の護符で、所有する量に応じて現世での罪が減じられ







